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夢で食えたら [繰言]

自称・約7年前のピア・プロダクション経験者として『ピアプロ』について思うところを書こうと思ったら
変にネガティブな長文になってしまったので,先に結論を書きます:
初見では,『ピアプロ』は
作品を投稿・相互評価できるサイト,単なるクリエーターのSNSと何が違うのかがわからない.
これでもユーザは十分有難く楽しめるけれど,
"CGM" なら,そんなサイトはクリプトン社が用意しなくても自発的に作られて然るべき.
同社は "CGM" を前面に押し出しており,その志に私も期待と応援をしたいけれど,
今のところ私には意図が理解できない.よって参加せずに様子見.

以下,長文.多分に私見偏見が入っていることを自覚しています.
作品に興味はあっても私SaHKaの考えに興味のない人は読まない方が無難です


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12/3,クリプトン社はVocaloid2の第2弾が鏡音リン・レンの双子であることを発表した.
初音ミクを中心としたボカロイドブーム(※1)の渦中の人たちは,この話題で持ち切りの様子だ.
同日,クリプトン社はもうひとつのサプライズを用意していた.『ピアプロ』である.

『ピアプロ』とは,説明によれば
「ネットに分散しているクリエイター同士が
お互いの得意なコンテンツ(例えば、オリジナル曲、イラストなど)を投稿し合い、
協業して、新たなコンテンツを生むための"創造の場"を目指すものです。」
・・という,クリエイターのためのSNSだそうだ.

作曲が趣味で初音ミクにも手を出している人なら,参加しない手はないのだろうけど,
私は敬遠しておくことにする.今日は,その思うところをここに書いておく.

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現代,消費者はコンテンツを視聴するに止まらず,コンテンツを生み出すこともある.
そのようなコンテンツの情報媒体はCGM(Consumer Generated Media)と呼ばれ,
いわゆるWeb2.0的な情報社会における消費者(※2)の姿と考えられている.
初音ミクをネタにして創作に手を出しているボカロイドブーマーはCGMの中の人である.
そしてクリプトン社は代表者がCGMに一家言ある人として知られており,
『ピアプロ』の設置はその魁だろうと考えられる.

ここでちょっとカミングアウト.
実のところ私は,CGMがCGMと呼ばれていなかった頃にCGMに携わった経験がある.ネタは先行者.
侍魂という日記サイトで火がつき,シルチョフ兄弟社を中心に創作活動が発展した
当時のネット上の一大ブームである.その規模と経緯は
日本製「先行者」開発プロジェクトが参考になるだろう.
現在のボカロイドブームは当時の先行者ブームの規模と同程度のオーダだと感じている.
もちろんボカロイドブームは今後更に膨らむ可能性があるので現時点の感触ではあるが.

当時まだ学生だった私が先行者ブームの渦中で感じたことは
今のボカロイドブームのそれと多く共通している.
ネタを見て聴いて楽しむ消費活動で終わるのではなく,
そこで生じた発想から更に自分も創作しようという人が多いこと.
小中高生からプロの仕事に片足突っ込んでる人まで.
創作物は玉石混合だったが,作品のレベル如何によらず多くの人が楽しそうだった.
私も同ハンドルで音楽面から参加し,今でも一部の間で銅鑼王で名が通っていたりする(汗;,

先行者ブームの頃はSNSもブログもなかったし,2chはあったがニコニコ動画もyoutubeもなかった.
しかし,コンテンツの生産流通仲介消費の環境のほぼすべてを
関係者が「自前」で用意するほどのパワーが先行者ブームにはあった.
ネット上でもリアルでも大宴会が何度か開催され,大盛況だった.
創作活動の成果は,まさに "ピア・プロダクト" となった.
何百万回もプレイされたゲームCDが通販され,
数え切れないほどのショートストーリーやイラストや楽曲や動画が発表され,
秀作を収録したファンブックやCD-ROMがコミケとそのテの店頭で売れた.
その一方で,楽しいコミュニティを下支えする人たちがいた.
人が集まったことによる様々なトラブルに影で取り組み,楽しいコミュニティの維持に勤めた.

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SNSやニコ動などのサイトはCGMにとって非常に強力だけれど,
典型的なシステムの台頭によりCGMがマスメディア化することで
人々の目がそこに強く依存するという諸刃の要素を感じる.
この功罪は実際,ニコニコ動画の内外で初音ミクの作品に対するボカロイドブーマーの
異常な温度差として表れている.
私が初音ミクを知った2ヶ月前,色々と調べた回って見たものは,
ニコニコ動画から「フルみっく伝染歌プレーヤー」に追加される秀作もあれば,
視聴するに堪えない初音ミク作品までyoutubeに流出している一方で,
muzieや個人のサイトに「ひっそりと」秀作が置かれているという状況だった(※3).
クリエーター同士が雪達磨式に繋がっていきながら活動拠点が生まていった先行者ブームとは違い,
明らかにマスメディアがクリエーターを繋げている.
その1つになるかもしれない『ピアプロ』の責任は小さくない.

--
そこで,『ピアプロ』に対する疑問点を列挙する.

疑問1:
「コンテンツを投稿し合い、協業して、新たなコンテンツを生む」
という流れには飛躍がありすぎる.
ブームの間は投稿し合うクリエーターがすぐに集まるだろう.
その後,どのように協業が実現されるのだろうか?
集まりすぎると玉石混合で協業相手が見つけにくくなる.
方向を誤れば "創造の場" を目指す名目で
"玉" をフィーチャーするだけの場になってしまわないだろうか?

疑問2:
協業を実現するには適した規模があり,
規模が大きい協業のためには組織的になる方が良い.
自発的に消費者が組織化するためには求心力のある人物が必要で,
それに合わせて(時間的,能力的に)動ける人が協業に参加できる.
ネット上におけるこの過程がどういうことなのかよく考えないで
とりあえず勢いでピアプロに登録したユーザが大半ではなかろうか?
クリエーターとはいえ,やはり消費者である.
プロと違って好き勝手気ままに創作できるというCGMの旨味を損なわないアイディアを
クリプトン社は持っているのだろうか?
人が集まったことによる様々なトラブルで7年前に私たちは大変苦労した経験がある.
時間に余裕のある小さな子供は情報リテラシが低く,時間に余裕がない大きな子供は協業に苦労する.
しかし,トラブルを恐れていては協業は進まない.
まずは,コミュニティのメンバーが持つべき情報リテラシ(含エチケット・権利関係)を学べる機会を
豊富に設けることが大切だと思う.

疑問3:
CGMでは消費者側から自発的に何かが生まれることに意味がある.
クリプトン社が先頭を切って何かした時点でそれはCGMではなくなるのでは?(※5)
同社はどこまで『ピアプロ』のコンテンツに関与するつもりなのか明示すべきだと思う.
CGMの基盤としてSNSを整備するまでは理解できる.
しかし,人が集まった時点で同社が主体で何か企画を発動したら,
少なくとも私は疑問視をするだろう.

疑問4:
「『ピアプロ』聞いて!見て!使って!認めて!を実現するCGMエンジン」・・とあるが,
CGMエンジンって何だろう?CGMの具現化に必要な新しい技術的要素が何なのか見えてこない.
多分,皆で使いながら必要に応じて機能を改善していくのであろうが,
作品を投稿・相互評価できるサイトや,単なるクリエーターのSNSと何が違うのだろうか.
コンテンツの玉石を公平に評価する機能,望んだ協業相手が見つかる仕掛け,
プロジェクトの規模をコントロールする仕組みが鍵かもしれない.

--
これらはすべて私的な疑問であって,
クリプトン社が『ピアプロ』をどう定義してどう利用しようと,私ごときが口を出すことではない.
ピアプロがどのように転ぼうとも「(i)大宴会場」として成功を収めるに違いない.
消費者にとってはそれだけで十分有難く楽める.
しかしクリプトン社は明らかに「(ii)CGMの具現化」を期待させている.
(i)なら若い人たちに是非楽しんでもらいたい.しかし私は(ii)の意味でピアプロに興味がある.
ただシステマチックに形骸化したCGMなのか,
それともCGMのパイロットモデルとして何か新規性(※6)が見られるのか.
安易にブームの中の人にならず,かと言って蚊帳の外の人にもならないように,観察していきたいと思う.
私的にDTM使いの端くれとして,公的に情報メディアに関する教育研究者として,色々な意味で興味深いのです.

※1 音楽だけじゃないのでDTMブームではないし,初音ミクだけじゃないので初音ミクブームでもない.ここではこう呼ばせてもらいます.(商標登録で "Vocaloid" は "ボカロイド" 読むそうです(参考))
※2 消費者・・というか,もはや情報の「消費者」に止まらず「生産者」「仲介者」になっている.違和感のある用語だなぁ,CGM.
※3 現在のmuzieではpopsの上位が初音ミク作品で埋め尽くされている.
※4「なんかごめんなさい」等の拙作も,ニコ動に投稿すれば注目されるかもというご意見をいくつかいただいている.少し暴露すると,ニコ動にあげずに色々な形でWebに置くととどうなるかという実験をしていました.
※5 シルチョフ兄弟「社」として振舞っていたが,彼らは先行者ブーマーとともに先行者ゲームを創作したCGMの中の人である.少なくともクリプトン社はConsumerではない
※6 利用規約とライセンス条件が整備されているという点には新規性があると思う.しかし,特に若年層に難読そうなこの利用規約を全て理解し検討した登録ユーザが多いとは思えない.特に第11条(所有権と知的財産権)の7~10辺りは大丈夫か?一次著作権者は二次創作物に権利を失うと読めるが?

追記1(12/5):
自発的なコミュニティも立ち上がっている様子.どう住み分ける?

追記2(12/7):
ピアプロのブログより引用
--
『ピアプロ』は、ピア・プロダクション(peer production)を略したものです。この言葉のしっかりとした定義はまだ無いように思いますが、『ウィキノミクス』では、ピア・プロダクションを以下の様に説明してます。
共有成果を生み出すため個人が自発的に集まり、自発的秩序形成によって作り上げた平等なコミュニティの力のみを使う、財やサービスの生産方法
--
利用規約を会社が用意し,会社が立ち上げたコミュニティの場がピアプロ・・?(-つд⊂) ゴシゴシ (;‐@_@)
皮肉を込めて こう呼ばれないように・・ CGM: Crypton Generated Media ・・と.

変更(12/12):
ボーカロイド→ボカロイド(参考


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SaHKa

※6「利用規約」について文意を確認するため,12/5昼,
SaHKaは下記のような質問コメントをクリプトン社のブログに投稿した.
・11条は「一次著作権者は二次創作物に権利を失う」という解釈で正しいか?
・その失われた権利はクリプトン社に譲渡されているという解釈で正しいか?
しかし,12/9現在,質問の投稿先
http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/12/post_60.html#comments
は11/4の17:30を最後にコメントの更新が止まっており,未だに先方からの回答がない.

投稿の成功を知らせるページは表示されたので,機械的なミスは起きていないと思う.
同社のブログは,投稿されたコメントを一時保留し,同社がチェックしてから掲載されるようになっている.
利用規約の不明な点を確認したかっただけなのだが,
投稿内容または投稿先が不適切のため検閲削除されたのであろうか?
削除は致し方ないとしても,
会社として利用規約に関する質疑応答くらいは確実にしてほしいものである.
投稿時にメールアドレスも知らせているので,返答は私個人宛にでも可能なはずである.

まぁ,12/4午後にピアプロ本体にブログが開設されたため,投稿がそちらへ移ったのであろうが,
それにしても不自然な止まり方である.
不思議に思われる方は上記の投稿先に「開設おめでとう」「楽しみです」とでもコメントして,
コメント掲載が更新されるかどうか試してみてはいかが?
by SaHKa (2007-12-09 19:16) 

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